TECHNICAL COLUMN抗体医薬の製造方法をわかりやすく解説!

初めに

抗体医薬品は、特定の病原体や疾病に対して高い特異性と効果を持つため、近年では医療分野で注目されています。しかし、その製造方法は非常に複雑で高度な技術が求められます。今回は、抗体医薬品の製造プロセスをわかりやすく解説します。

抗体医薬品とは

抗体医薬品は、体内で特定のターゲット(抗原)に結合する抗体を利用した治療薬です。抗体とは、免疫システムが病原体や異物を認識し、無害化するために産生するタンパク質の一種です。抗体医薬品は、その高い特異性からがん治療や自己免疫疾患の治療、感染症の予防などに幅広く応用されています。

抗体医薬品の製造方法

抗体医薬品の製造工程は、おおまかに以下のステップに分けられます。
1. 抗体の選定とデザイン
2. 細胞株の作製
3. 培養
4. 単離と精製
5. 製剤化と品質管理

1.抗体の選定とデザイン

まず、目的の疾病や病原体の特定の抗原を標的とする抗体を選定します。十分に効果的であり、副反応が少ない抗体を設計するために、遺伝子工学的的なアプローチによって改変されることが一般的です。 例えば抗体のヒト化は良く用いられる改変です。マウスなどの動物由来の抗体は、ヒトの体内で免疫反応を引き起こす可能性があるため、ヒトの遺伝子を利用してヒト化(ヒューマナイゼーション)します。この工程では、マウス由来の抗体のうち、抗原に特異的に結合する部分(可変領域)を維持しつつ、その他の部分(定常領域)をヒト抗体に置き換えます。 そのほかにも細胞培養での生産性を向上させる改変、精製工程を容易にする改変なども行われます。

2. 細胞株の作製

選定した抗体を大量に産生できる細胞株を作製します。通常、CHO(Chinese Hamster Ovary: チャイニーズハムスター卵巣)細胞が使用されます。目的の抗体遺伝子を導入した細胞を増殖させ、抗体を安定して大量に産生できるものを選抜します。 設計された抗体遺伝子をウイルスベクターやトランスポゾンを使用して細胞に導入します。この段階で、抗体の産生効率を確認し、最適な細胞株を選定します。

3. 培養

選定された細胞株を大規模に培養し、抗体を大量に産生します。この工程は、バイオリアクターという大規模な容器を使用して行われます。バイオリアクター内では、細胞が最適な環境で増殖し、抗体を分泌するように厳密に条件が管理されます。 単位培養液に対する抗体生産量は力価と呼ばれています。1L当たりの抗体生産量は近年では1~10 g/Lと高力価になっています。力価の向上は製造原価の圧縮に極めて有効ですので、高力価を実現するための抗体遺伝子の設計や、細胞株の樹立は重要な研究テーマになっています。

4. 単離と精製

培養後、培養液から抗体を回収し、目的の抗体を単離・精製します。これには、クロマトグラフィーやフィルターを用いた高度な技術が必要です。 JNCが製造販売するセルファインはクロマトグラフィー工程に使用されています。クロマトグラフィーは生産されたモノクローナル抗体を細胞株由来のタンパク質や不純物から分離するための分離精製工程です。アフィニティクロマトグラフィーや複数種類のイオン交換クロマトグラフィーなどの手法が用いられます。 JNCではプロテインAクロマトグラフィーとしてセルファイン SPA-HCを、イオン交換クロマトグラフィーとしてセルファインMAX GSやセルファインMAX Q-hなど複数種類を販売しています。抗体医薬品は高濃度のモノクローナル抗体を精製する必要があります。このためクロマトグラフィー充填剤は高吸着であること、高い耐圧性を持つことが必要となります。

5. 製剤化と品質管理

精製された抗体は、患者に投与できる形態に製剤化されます。この段階で、安定性や有効性を保つための添加物を加えたり、適切な濃度に調整したりします。また、厳密な品質管理が行われ、製品が一定の品質を保てるようにします。 特に近年の細胞培養の向上によって、高力価のモノクローナル抗体を生産できるようになりました。しかし高力価になるほど、抗体の凝集体が問題となるケースが増えました。抗体の凝集体は薬効成分の低下や副作用をもたらします。JNCではセルファインMAX GSやセルファイン フェニルEXが抗体の凝集体を効率的に除去することができることを見出しました。抗体の凝集体が問題となっている製造工程においてこれらのユニークなクロマトグラフィー充填剤が利用されています。

最後に

抗体医薬品の製造は高度な技術と管理が求められるプロセスです。しかし、その高い特異性と治療効果から、抗がん剤をはじめとして多くの難病治療において新たな希望となっています。医薬品開発に携わる科学者たちが日々革新を続けることで、より多くの患者に行き渡ることが期待されています。 このように多くのステップと複雑な生産工程、高い品質管理が必要な抗体医薬品の製造。しかし、それだけに得られる治療効果も大きく、未来の医療を支える重要な分野です。



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