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ポリリジンとは

ε-ポリリジン、ε-ポリリジン塩酸塩、α-ポリリジンの違いについて

ポリリジンは、必須アミノ酸であるリジンが複数結合したポリアミノ酸です。ポリリジンにはε-ポリリジン、ε-ポリリジン塩酸塩、α-ポリリジンという複数の構造が存在します。それぞれの特長を解説します。

1.ε-ポリリジン(フリー体)

正式にはε-ポリ-L-リジンと呼ばれています。必須アミノ酸であるL-リジンが、側鎖のアミノ基(ε位)でペプチド結合したユニークな化学構造を持っています。α位のアミノ基は強いカチオン性を持ち、高カチオン性のポリマーとなっています。カウンターイオンとなる塩は無く、ポリリジンはフリー体として存在しています。JNCはこのフリー体のεポリリジンを製造販売しています。

ε-ポリリジン(フリー体)

4つの炭素(C4)がアミノ基の間に存在するため、カチオン性と疎水性の両方の性質を持っています。これにより、特異的な特性を示します。例えば、敗血症の原因物質であるエンドトキシンを選択的に吸着する能力があります。この特性を利用して、エンドトキシンの吸着材としても使用されています。また、細胞接着能も持つため、細胞培養基材のコーティング剤としても応用されています。

εポリリジンは、食品添加物として、日本、韓国、中国で認められています。日本と韓国においては、εポリリジン塩酸塩やα-ポリリジンは食品添加物として認められておりません。また、中国ではフリー体と塩酸塩が、明確に区分されており、それぞれ使用できる食品や添加量が異なっています。またα-ポリリジンは食品添加物として認められていません。

JNCが製造するフリー体のεポリリジンは、アメリカのFDA GRAS認証を受けています。(GRN No.135、GRN No. 336)。この認証番号は、JNC株式会社が製造するεポリリジンにのみ適用されます。GRAS認証は物質そのものだけでなく、製造工程も含めて厳格な審査を受けています。

ε-ポリリジンは、微生物による発酵で生産されています。JNCのε-ポリリジン(フリー体)は、発酵後の製造工程においても化学合成の工程を一切含まないため、天然の食品添加物です。
フリー体のε-ポリリジンは、吸湿性の高さから粉末化が非常に難しい物質です。そのため、JNCでは、25%の水溶液、もしくは賦形剤として50%のデキストリンを含有した50%粉末を製造販売しております。100%のε-ポリリジンフリー体の粉末は工業的に製造することが難しく、90%以上の高濃度εポリリジンを含有する粉末は、後述の塩酸塩タイプがほとんどです。

2.ε-ポリリジン塩酸塩

ポリリジン塩酸塩は、その製造工程中の造塩反応が化学合成工程にあたるため、純粋な天然素材とは言えません。塩酸塩化によってε-ポリリジンは粉末化が容易になるため、市販されている高濃度ε-ポリリジン粉末製品のほとんどが塩酸塩タイプです。
ε-ポリリジン塩酸塩は、水溶液中でε-ポリリジンから容易に塩化物イオンに解離します。塩化物イオンは金属の腐食を促進させる可能性があります。このような腐食が製造設備や食品処理ラインに影響を及ぼすことが懸念されます。

3.α-ポリリジン

α-ポリリジンはリジンのα位のアミノ基でペプチド結合したポリマーです。化学合成による試薬レベルでの製造に限られ、工業生産されておりません。構造的にε-ポリリジンが直鎖状なのに対し、α-ポリリジンは通常のタンパク質と同様、αヘリックス等の二次構造を形成し、その主鎖にリジン側鎖の4-アミノブチル基が結合した構造を示します。
化学合成で作られるため、分子量の制御が難しく、分子量分布が広いのが特徴です。またDLラセミ体のα-ポリリジンも販売されています。現在は、主にカチオン性ポリマーとして試薬レベルで利用されています。例えば、培養細胞の接着性を向上させるために培養容器へのコーティング剤として使用されています。一方で一部の細胞ではε-ポリリジンの方がより高い細胞接着性を示す報告があります。これはα体とε体の構造の違いによるものではないかと推察されています。
α-ポリリジンは、POLYLYSINEという名称でINCI(化粧品原料国際命名法)に登録されています。一方でε-ポリリジンはPOLYEPSILON-LYSINEという名称でINCIに登録されています。中国の化粧品原料目録(IECIC)は、POLYLYSINEを参照してα-ポリリジンが原料登録されいます。一方でε-ポリリジンは中国の化粧品原料目録には登録されていません。

表. 各種ポリリジンのまとめ

ε-ポリリジン ε-ポリリジン塩酸塩 α-ポリリジン
INCI名 POLYEPSILON-LYSINE - POLYLYSINE
IECIC - - POLYLYSINE
聚赖氨酸
化学構造 ε-ポリリジン ε-ポリリジン塩酸塩 α-ポリリジン
化学合成プロセス 無し 増塩反応 すべての工程
保存料登録 日本、韓国、中国 中国 無し
備考 JNC製ポリリジンのみ
FDA GRAS認証
(GRN No.135 and 336)